第4回目となる「GMOインターネット青山学院大学寄付講座」は、国内でも有数のインターネットサービス『Amaba』を運営する株式会社サイバーエージェント代表取締役社長CEO藤田晋氏が登壇。
インターネット広告代理事業において国内トップクラスの売り上げを誇る同社・代表取締役社長CEOの藤田氏も、第3回講座を担当された中田氏と同じく青山学院大学の卒業生。
学生時代はベンチャー企業で約2年間にわたり『営業』を経験。卒業後、株式会社インテリジェンスに入社し、社会人2年目で早くも起業のチャンスを掴んだ。
1998年に同社を創業すると、2000年には(当時)史上最年少で東証マザーズへの上場を果たした藤田氏。
インターネット業界の変化の波をしっかりととらえ、新規事業の立ち上げと事業の多角化を積極的に展開してきた藤田氏が考える「成長する人」そして「成長する会社」とは。大学入学から会社設立、そして現在に至るまで、その軌跡と共にベンチャー企業経営論を語る。
雀荘、Bar、広告代理店でのアルバイト……様々な『社会経験』が成長の礎となった
私は1997年に青山学院大学経営学部を卒業し、以降14年間、今日に至るまでベンチャー企業とともに成長を続けてきました。今日はその経験を踏まえ、サイバーエージェントでたくさんの社員と仕事をする中で学んだ、あるいは感じたことを、『成長する人材・成長する会社とは』というテーマでみなさんにお話したいと思います。
まずは簡単に自己紹介させて頂きます。私は高校を卒業後、この青山学院大学に入学するために福井県から上京してきました。高校時代はバンド活動に熱中し、将来は「ミュージシャンになる」と意気込んでいたのですが、実はどうしようもなく歌がヘタだったんです。
いざ進路を決めるにあたり、自分の歌唱力と真剣に向き合った結果、ボーカリストとしての夢は諦め大学へ進学することを決めました。その当時口から出任せで「将来レコード会社を作ってみんなをデビューさせてやる」と仲間に言い放ったのですが、今思い返すとそれが起業を意識したきっかけとなったのかもしれません。
青山学院大学経営学部に入学したものの、最初の2年間は雀荘に入り浸り。ついには雀荘でアルバイトをはじめ、学校で取得できた単位は1年の終わりで18単位。2年の終わりには20単位と、合計38単位のみでした。そんな状況でしたから、3年への進学を見込んで神奈川から東京に引っ越したものの見事に『相模返し』にあいました。
引越し後、雀荘に通えなくなったので、近所のバーでアルバイトをすることにしたのですが、そのバーで怖い先輩に当時こんなことを言われました。「お前の夢は何だ。起業したいなら、それに向かって行動しろ。じゃなければ、このバーに就職するんだ」と。バーに就職するのだけは避けたい。その一心で、あるベンチャー企業にアルバイトとして入社。
アポイントの合間に授業を受け、またスーツを着てお客様と商談するという毎日を送るようになりました。小さな広告代理店だったのですが、営業として働くことにとても「やり甲斐」を感じましたし、「会社とは何なのか」を考える機会をいただきました。
仕事の楽しさを感じながら、卒業に向けて必死になって単位も取得しました。社会人1年目に入社した株式会社インテリジェンスでは、それまでの『社会経験』を活かし、即戦力として働くことができました。2年間の営業経験のおかげで、同期入社50人のなかでも、当然注目される機会は多かったと思います。
会社や仕事が大好きだったので、夢中になって一生懸命働きましたね。アルバイトで培った「社会経験」、そして入社1年目の夢中になって働いた時間は今でも私の財産ですし、その経験があったからこそ、24歳という年齢で『起業』が叶ったのだと思っています。
入社2年目で巡ってきた『起業』のチャンス。
その後の逆境を乗り越えてパイロットメディア立ち上げに成功
社会人2年目を迎える頃には、『起業』のことよりも、「この会社で長く頑張っていきたい」という思いが強くなっていました。しかし、チャンスは突然巡ってきたのです。
以前アルバイトをしていたベンチャー企業から「役員として一緒にやらないか?」というお話を頂き、悩んだ末に退職を決意。当時インテリジェンスの社長だった宇野社長に退職の意を告げると、意外な言葉が返ってきました。
「辞めるくらいなら、僕が出資するから会社を創ってみないか?」。入社2年目でいきなり『起業』チャンス。これにはさすがに驚きましたが、「考えていてもはじまらない! とにかくやってみよう」と意を決しました。
貯金をかき集めて200万円。一緒に起業することになった仲間が100万円。それ以外をインテリジェンスに出資してもらい、資本金1,000万円で1998年株式会社サイバーエージェントを創業。社長である私の他に、役員1名+アルバイト1名という小さな営業会社が誕生しました。
起業するにあたり、どんな分野で何をやる会社なのか、実はあまり明白ではなかったのですが、唯一『21世紀を代表する会社を創る』というビジョンだけは持っていました。それは今でも変わらず、当社のビジョンとなっています。
会社設立当時、インターネット業界は逆風に晒され、決して順風満帆だったわけではありませんが、その後のインターネットバブルに押され2000年には東証マザーズ上場。26歳で個人資産200億円を超えるまでになりました。上場後、225億円の資金調達ができると、それまでのような自由な経営ではなく、経営者として投資家の意を汲みながら企業を大きくしていくことが求められるようになりました。
しかし、翌年にはインターネットバブル崩壊。株価が暴落し、弊社も例外なく奈落の底に突き落とされます。当時、現金で180億円の資産を持っていたにも関わらず、会社は70~90億円でいつでも買収されてしまうような状態。つまり、当時サイバーエージェントを買えば100億円儲かるという状態です。
周囲からの非難の声に私もボロボロになりましたし、「もう(買収されても)いいかな」と諦めかけたのですが、起業のときに掲げた「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを思い出し、こんなことで立ち止まってはいけないと目が覚めました。世間では企業買収が盛んに行われ、有能な人材が次々とヘッドハンティングされていました。
同時期に上場したたくさんの競合会社が数多く消えていくのを目の当たりにするなかで、「いつまでも弱気でいても仕方ない。これまで築いてきた会社の文化を守ろう!」という強い意志が芽生えてきたのです。
世間の流れに飲み込まれることなく、自分たちのやり方・ペースを貫こう。企業買収で会社を大きくするのではなく、事業を小さく生んで大きく育てる、ヘッドハンティングではなく採用した人材を育成していく、会社のカルチャーを大事にしながら成長する、それこそがサイバーエージェントだと考えたのです。
その後は、みなさんご存知の通り『Amaba』の成長とともに現在に至ります。もともと広告代理事業を軸としていましたが、インターネットビジネスに期待される収益逓増型のビジネスモデルに転換するには、会社を代表するパイロットメディアをつくり、メディア事業を中心とした事業体にすることは必然でした。創業来、国内でも有数のインターネットメディアをつくりたいと考えていた弊社にとって、メディア事業への挑戦は念願といっても過言ではありません。
企業としてさらなる成長を目指すためには、新規事業の立ち上げ、すなわち「創り続けること」が不可欠です。この業界の最大のリスク、それは「何もしないこと」です。これだけ速いペースで進化していく業界は他にありません。だからこそ、常に「行動する」「チャレンジする」ことが大切なのです。
志高く、打たれ強い精神力を持ってチャレンジし続ける人が「成長する」
以上、前段でお話したこれまでの人生を振り返り、そして株式会社サイバーエージェントでたくさんの人材を育てるなかで、「成長する人」にはいくつかの共通点があることに気がつきました。それに基づいて、「成長するためには何が必要か」をお話しましょう。
「走りながら考えることができる」人は、チャンスが巡ってきた時に、臆することなく飛び込んでいける人だと思います。せっかく目の前にチャンスがやってきても、いちいち考えて立ち止まっていたのでは成長することができません。とにかく「やってみる」。もちろん、理想と現実のギャップはすぐには埋まらないでしょう。それでも高い目標を掲げ、タフにやり抜く!それこそが成長するシナリオなのではないかと思います。
「意思統一」と「仕組み」が成長のカギ。人材育成・社内活性化にはコストを惜しまない
また、同じく「成長する会社」にも共通点があると考えています。それに基づいて、弊社が心掛けていることをご紹介します。
人事制度においては、若い人材をどんどん主要ポストに抜擢し、経験を積ませています。また、役員を8名と定め、2年ごとに2名ずつ入れ替わるようにしています。これにより社員全員にチャンスが与えられ、同時に、役員たちが成長し続けるために努力する風土が生まれています。こうして社内を活性化させることにより、社員のモチベーションを高く維持しながら人材を育成する仕組みが強化されています。
新規事業の立案に関しても、半年に一度『新規事業プランコンテスト』を開催し、良いアイデアを事業化するという仕組みが整っています。年次問わず社員や内定者が参加できるこのコンテストでは一度に300近いアイデアが集まりますので、常に新しい思考・視点で事業を精査することができます。自身のアイデアが採用された社員は、自身が事業責任者としてさらに経験を積んで成長していきますし、その事業が成功することで会社も成長することができるのです。
こうして事業化されたアイデアは、『CAJJ制度』に則り、四半期ごとに精査されています。事業立ち上げから2年で黒字化することを目標に、売り上げや今後の見通しを振り返りながら、結果がでなければその時点で撤退。判断に迷うことで「止まる」「何もしない」というリスクを取るよりも、次のチャンスを逃すことがないよう、判断基準を明確化しています。
現在、グループ会社も含め社員約2000名。大半は20代後半と若い社員です。今後は海外進出も視野に入れながら、『21世紀を代表する会社』になれるよう社員とともに、会社としても大きく成長し続けたいと思います。本日はご清聴ありがとうございました。
1997年 青山学院大学経営学部を卒業後、同年に株式会社インテリジェンス入社。
1998年にサイバーエージェントを創業し、2000年には史上最年少社長(当時)として東証マザーズに上場。
現在、サイバーエージェントは「Ameba」をはじめ、PCやモバイルなどにおけるインターネットサービスを運営・提供しています。インターネットメディア事業及びインターネット広告代理事業、Ameba関連事業、投資育成事業を軸に事業展開をするインターネット総合サービス企業として、1998年の創業から一貫して、インターネット産業において高い成長を遂げる会社づくりを目指し、「21世紀を代表する会社を創る」を会社のビジョンとしています。
現在は、代表取締役社長CEOであると同時に、「Ameba」の総合プロデューサーおよび技術担当取締役としてサービスの拡充・拡大に注力。
著書に「渋谷ではたらく社長の告白(アメーバブックス)」、「藤田晋の仕事学 自己成長を促す77の新セオリー(日経BP社)」などがある。