青山学院大学 寄付講座

2011年4月27日

 株式会社サマンサタバサジャパンリミテッド 代表取締役会長兼社長 寺田 和正氏


今回で最終回を迎える「GMOインターネット青山学院大学寄付講座」、登壇されるのは世界中で支持されている人気ブランド『サマンサタバサ』の創設者、株式会社サマンサタバサジャパンリミテッド代表取締役社長 寺田和正氏。


若い女性をターゲットにしたバッグやジュエリーを企画・製造・販売している当社は、寺田氏が1994年に社員数4名からスタートした企業。2005年4月にオープンした「サマンサタバサDELUXE表参道GATES店」をはじめ、2006年には日本国外初の路面店をニューヨークマディソンアベニューに出店するなど、積極的な海外展開で知名度を上げている。

ヒルトン姉妹やヴィクトリア・ベッカムなど海外セレブに社長自らモデル出演を交渉。惹きのあるプロモーションで世界中の注目を集めている。斬新なアイデアと行動力、そして「強運」を持ち合わせた寺田氏の「ベンチャー企業経営論」とは!?

はじめに 

4つのテーマに沿った「ベンチャー企業経営論」

みなさん、こんにちは。株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドの寺田です。
今日は、以下4つのテーマに沿って「ベンチャー企業経営論」を進めさせていただきます。

(1) どのような学生時代を過ごしたか
(2) 起業するまでの経緯
(3) 企業理念
(4) リーダーシップとは?

最終的に、私がみなさんにお伝えしたいメッセージは「強い運を持つこと」です。運が良い、悪いとはよく言われますが、実は「運」というのは自ら作り出すことができるものです。それをみなさんに知っていただき、最後に私が考える「運の作り方」をお教えできればと思っています。

学生時代

中学2年で起業を決意!次男というコンプレックスを抱えながら過ごした学生時代

まずは学生時代、私が起業を決意したのは中学2年生の時でした。実家は広島県で鉄工所を経営していて、子供の頃から社長である父に憧れて育ちました。田舎では珍しい外車に乗り、お寿司屋さんで食事をすれば、支払いもせずに「サッ」と手を上げて店を出る。そんな父がカッコよくて仕方なかったんです。自分もいつか絶対に社長になる! そう思っていました。

しかし、実家には私の兄(長男)がいます。会社は長男が継ぐものだと考えられていた時代、父がどちらを後継ぎにしようとしているのか、それがいつも気がかりでした。 ある時、思い切って父に「会社の後継ぎは誰になるの?」と聞いてみたのです。

すると、父は誤魔化すように「お前かもしれないし、兄さんかもしれない。もしかしたら他の第三者かもしれない」と答えました。それを聞いて自分が後継ぎとして考えられていないことを察知し、深く傷ついたことを今でも覚えています。その時から「それならば自分で会社をつくるしかない」と考えるようになりました。

両親は常に兄を可愛がっていましたし、実際、私に買い与えるものはすべて兄より劣るものばかり。兄には10段階変速ギア付きの自転車を買っておいて、私には近くのデパートで売っている安物の自転車……なんてことはしょっちゅうでした(苦笑)。自分は家族に必要とされていない、そんなコンプレックスを抱いたまま過ごした時代でした。

人生の分岐点となったカナダ留学
ピンチをチャンスに変える思考とアイデアでビジネスが大ヒット!

そんな私の人生を大きく変える出来事が起こったのが、大学3年、カナダ留学をした時でした。カナダから実家に電話を掛け、母親に「父と話がしたい」と言ったのですが、なかなか代わってもらえず、なんとか理由をつけて誤魔化される日が続きました。1週間ほど経った頃、泣き崩れる母から、ようやく父が脳梗塞で倒れたことを聞かされたのです。選択肢は二つ、植物人間か死か……。目の前が真っ暗になりました。

すぐにでも日本に帰ろうとしたのですが、父が集中治療室に入る前に、母に「和正には伝えるな。今、あいつに必要なのは、カナダに残って語学や文化をしっかり学ぶことだ」と言ったと聞き、結局、帰国することもできないまま自分の未熟さに一晩中涙を流したものでした。 今でもその時の悔しさ、虚しさは忘れることができません。自分はなんてバカなんだ! 本当はすごく恵まれていたのに、両親に感謝もせず今まで生きてきたなんて……そう思えてなりませんでした。

この出来事があって以来、それまで以上にカナダでの時間を大切にするようになりました。 父の病気は我が家にとって最大のピンチだけれど、このピンチをチャンスに変えてこそ父の想いに応えることができる。そう考え、一生懸命語学を学び、カナダの文化を知るために積極的に行動するようになったのです。

さらに、カナダで何かを成し遂げたい、日本人ならではの発想で何かビジネスをはじめよう! と決心し、二つの事業を用意しました。一つは、カナダ人を英会話教師として日本に派遣するビジネス、そしてもう一つが、カナダ産の皮ジャンを安く仕入れ、日本で販売する「皮ジャン」ビジネスです。

しかし、一人の日本人がいきなり現れて「仕入れさせてくれ」と言ったところで相手にされません。童顔すぎるこの顔が問題なのか?と考え、思い切ってパンチパーマに髭を生やし、もはやチンピラか(笑)という格好で、改めて交渉を再開。なんとか1社、50%掛けで仕入れさせてくれる工場を見つけました。しかも、日本人の丈に合わせ、セミオーダーの皮ジャンを作っていただけることになり、さっそく5着サンプルを購入し日本に飛びました。サンプル代や交通費を合わせてもたいした額にはなりませんし、セミオーダーということもあって「前金」を頂戴できたので、元手がなかった私にはもってこいのビジネスだったのです。

カナダ産の皮ジャンが、安くセミオーダーで作れるとあって予想以上の大盛況!オーダー会場は長蛇の列で、皮ジャンビジネスは大ヒットに終わったのです。パンチパーマでカナダの工場を訪ね歩く根性! そして「前金」で元手をカバーするというアイデアが成功のカギとなりました。

起業するまでの経緯

前を向く力だけでなく、躊躇なく後ろを振り返る力も大事

皮ジャンビジネスで予想以上の成功をおさめた私は、ますます起業に意欲的になっていました。ところが、大学4年の夏休み、ふと「このままじゃいけない」という気持ちが襲ってきたのです。たまたま一つのビジネスが成功しただけ、社会に出たこともない自分が会社を興して上手くいくわけがない、と。一度は就職し、3年後に起業してはどうかと考えた私は、即戦力として働かせてもらえる中堅の商社に入社しました。

入社試験の面接では、これから同期となる学生たちが必死で入社への意気込みを訴えていました。しかし、その気持ちも入社2年目を迎える頃には無くなってしまうもの。給料が上がらないことに嫌気がさし、みんなが愚痴を言うようになったのです。「即戦力として働きたい!」と言っていたわりには、給料が安いと嫌になる……私は同期たちを見て、社員が活き活きと働くためには『やりがい』『プライド』『給料』の三つが必要なのだということを学びました。

その後、自らの会社を立ち上げるべく退職。バブル崩壊後、日本にとっては大ピンチと言われた時代をチャンスと捉え、『やりがい』『プライド』『報酬』の三つを兼ね備えるビジネス=ブランドビジネスをはじめることを決意しました。

縁あってニューヨークのパークアベニューにあるトランク専門店とパートナー契約を結ぶことができ、第一弾としてオリジナルのミニバッグを企画・開発。大変歴史のあるお店だったので、この魅力的なストーリーをフックにプロモーション戦略を立て、人気セレブにバッグを使ってもらうことで注目度を高めるという作戦に出ました。タイミング良く人気のTV番組で取り上げてもらえる機会を得て、「これから流行するアイテムランキング」の第1位に! 一気に知名度を上げ、一つ目の商品が爆発的に売れたのです。

株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドの企業理念

成長する企業の必要条件は『やりがい』『プライド』『報酬』そして、『信頼』

1年半ほどかけて一つ目の商品を育て上げたところで、一つ困ったことが起きました。なんと、立ち上げから一緒にやってきたパークアベニューのトランク店が契約を解消したいと言ってきたのです。建て前はともかく、実際には大手商社と契約できるチャンスが巡ってきたというとんでもない理由でした。

すぐにニューヨークに飛び、なんとか説き伏せることができましたが、この時はじめてビジネスにおける『信頼』の大切さを思い知ったのです。こうして、株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドの企業理念に最後の一つ『信頼』が加えられました。

リーダーシップとは

成功をおさめるために大切なこと、それは「強い運を持つこと」

『やりがい』『プライド』『報酬』『信頼』を掲げ、今日に至るまで成長を続けてきた株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドを代表して、最後にもう一つ、大事なことをお話します。人が成長し、成功をおさめるために大切なこと、それは「強い運を持つこと」です。

人の「運」には、
1、運がない人 
2、強い運を人と共有できる人 
3、人の運まで吸い取ってしまう人


以上3種類がありますが、みなさんは2番目の「強い運を人と共有できる人」になって欲しい、そういう人と出会って欲しいと願っています。3番目の「人の運まで吸い取ってしまう人」との見分けが難しいのですが、ポイントは嘘をつくかどうか。自分を誇大評価し嘘をつく人は、人の運を吸い取ってしまう人です。

そして、自ら『運』を作るために『縁』を大事にすることも忘れてはなりません。人との『縁』を大事にし、強い『運』を作る。『運』という概念をイメージするのはなかなか難しいものですが、みなさんには是非このことを意識しながら、輝かしい未来を創造していただきたいと願っています。

以上、ご清聴ありがとうございました。

PROFILE

髙島 郁夫

寺田 和正1965年、広島県生まれ。
株式会社サマンサタバサジャパンリミテッド 代表取締役会長兼社長

大学在学中の1987年にカナダへ留学。そこで、自らビジネスを手がける。
88年 駒沢大学経営学部卒業後、商社勤務を経て91年に独立。
独立海外ブランドの輸入・卸業を始める。
94年、SPAに転換し(製造小売)に転換し、「サマンサタバサジャパンリミテッド」を創立。
ブランド「サマンサダバサ」立ち上げ。
2005年12月に東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たす。
現在、バッグ、ジュエリー合わせて14ブランドを展開。
2008年11月、セレクトショップ「EIGHT MILLION」をスタート。
2010年、新規事業 サマンサタバサスイーツを開始。同年、アジア進出開始。
アパレル部門「バーンデストジャパンリミテッド」では、4ブランドを展開。  


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