青山学院大学 寄付講座

2011年4月27日

第2回 株式会社バルス代表取締役社長 髙島 郁夫氏


青山学院大学寄付講座第2回は、株式会社バルスの創業者で代表取締役社長の髙島郁夫氏が講師を務めた。

1990年創業のバルスは、若い女性を中心に圧倒的な支持を集める主力ブランド「Francfranc」をはじめ、計5ブランドのインテリア雑貨専門店約160店舗を国内外で展開。 2005年に東証2部上場、2006年には東証1部上場を果たすなど順調に成長を続けている。


髙島社長直々の講義を聞ける貴重なチャンスとあって、教室は満席。学生たちはメモをとりながら熱心に耳を傾けていた。

はじめに ~「遊ばない社員はいらない」

「遊ばない社員はいらない」

バルスが創業20周年を迎えた2010年、私は「遊ばない社員はいらない」という本を上梓しました。内容は私の仕事論。中でも私がもっとも強く伝えたかったメッセージは、タイトルのとおり「遊ばない社員はいらない」、つまり遊ばない社員にはいい仕事はできないということです。

株式会社バルス代表取締役社長 髙島 郁夫氏

遊ぶことは、すなわち、社会のものさしを知ること。人は遊びを通じて自分自身が社会の中でどんなポジションにあるか、自分の価値はどのくらいかを理解できるものです。逆に言うと、これを理解していない人は、良い社会人にはなれないと私は思っています。

もっとも私も、皆さんのような大学生のころから、こんな信念を持っていたわけではありません。それどころか、当時は自分が経営者になろうとは夢にも考えていませんでした。今日はそんな私が経営者になった経緯と現在の経営方針、さらに今後の展望についてお話したいと思います。

創業までの経緯

目標が持てなかった大学時代

私は関西大学経済学部の出身です。といっても、在学中は経済学に興味が持てなくて、授業もちんぷんかんぷん。今にして思えば、経済学にまったくリアリティを感じることができなかったんですね。結局、大学時代はもっぱら麻雀とアルバイトに明け暮れていました。

勉強はほとんどしませんでしたから、成績は悪くて、就職活動では苦労しました。やっと就職が決まったのは4年生の秋。幸いにも、たまたま大学に求人が来ていた福井県の家具会社「マルイチセーリング株式会社」に採用してもらうことができました。

闇雲に働いた20~30歳代
~営業とは「商品」でなく「人間」で売ることだ~

入社が決まると、卒業前からアルバイトとして働き始めました。といっても、最初はただ上司から「取引先に行って、こういう説明をしておいで」と言われるがまま、動いていただけ。 少し後になって初めて「あ、これがいわゆる営業なんだな」と気づいたわけですから、我ながらのんきなものです。

でも、仕事は大学の授業と違って非常に面白かったですね。仕事にのめりこむあまり、気がつくと2ヶ月近く休みをとらないこともあったほどです。大学で講義されていた経済学とは違い、仕事には、リアリティがありました。

この時期、がむしゃらに営業の仕事を続けているうちに、私は大切なことに気づきました。それは、商売というのは物と物、あるいは物と人ではなく、人と人の関係で成り立っているということ。営業とは商品ではなく人間で売ることなんです。これに気づいてからは、ますます積極的にお客様とかかわるようになりました。

人間万事塞翁が馬
~考え方次第で人生は良くもなるし、悪くもなる~

この時期、仕事を通じてもう1つ、大切なことを学びました。それは人生には波があるということ。良いことばかりが続くことも、悪いことばかり続くこともありません。私も仕事で何度か良い時期と悪い時期を繰り返すうちに、それが良くわかるようになりました。すると次第に、つらい状況に陥っても、「これは次の山に登るためのトレーニングだ」と考えられるようになり、以前はつらいと思っていた状況でも、自分を奮い立たせて頑張ることができるようになりました。つまり人間の気分というのは、きわめて主観的なもので、考え方ひとつで、がらりと変わってしまうものなのです。

ただし、どんなことでも一定期間続けないと、楽しさや醍醐味を味わうことはできません。例えば、ランニング。最初は走ることがとても苦しく感じられますが、私の場合、走り始めて35分経つと、いわゆるランナーズ・ハイの状態になって、とても楽になります。つまり、もしも30分で走ることをやめてしまったら、ランナーズ・ハイを味わうことはないわけです。仕事でも同じことが言えます。すぐに辞めてしまっては、面白さはわからない。いったん始めたら、ある程度続けることが大切なんです。

また、昔から「人間万事塞翁が馬」と言うとおり、人間の幸・不幸なんて、最後までわからないもの。最初は不運だと思っていたことが、幸運のきっかけになることも多いものです。インテリアや家具のことなど何も知らなかった私が、ひょんなことから家具会社に就職し、その会社の子会社としてバルスを創業できたのも、まさに「塞翁が馬」だったといえます。

バルスの経営方針

バルスがマルイチセーリングの子会社としてスタートしたのが1990年。そして現在もバルスの主力ブランドである「Francfranc」の第1号店を東京・天王洲にオープンしたのが1992年です。以来20年間、試行錯誤を繰り返しながら、確立してきたバルスの経営方針についてお話しましょう。

「売れる、売れない」で商品を選ばない

お客様は「ターゲット」ではない

皆さんは、経営学部で学ばれているということですが、経営用語って、「戦略」とか「商戦」   とか「ターゲット」とか、物騒なものが多いですよね。でも、大切なお客様に「戦い」を仕向けたり、お客様を「ターゲット=標的」としてとらえたりするのっておかしいと思いませんか?バルスでは、こう言った物騒な経営用語を一切使いません。

お客様を「ターゲット」ではなく、自分の友人と同じ「大切な人」と考える気持ちを大切にしています。「ターゲットを落とす戦略を考えよう」という発想ではなくて、「大切な友人をどうやったら楽しませてあげられるか考えよう」という発想を大切にしています。その方が、スタッフ1人1人、リアリティを持って仕事に取り組めるからです。

「売れる、売れない」で商品を選ばない

ブランドで商売をする企業には「しなくてはいけないこと」よりも「してはいけないこと」が多いものです。つまり、お客様のご期待を裏切るような、Francfrancらしくないことは、決してしてはいけないのです。例えば、Francfrancの店頭には、売れるからと言っていつまでも同じ商品を並べておくことはしません。得てして人気商品と言うのは時間が経つにつれて、陳腐化してしまうものだからです。

しかも、Francfrancのお客様は月に1度は来店して下さるリピーターがほとんどですから、お客様に「あ、また同じ商品を置いている」と思われることは避けなければなりません。だからFrancfrancでは、たとえ、今現在売れている商品であっても、一定期間を過ぎたら潔くカットします。目先の利益に惑わされないことも企業が永続するポイントだと考えています。

実年齢でマーケティングを行う時代は終わった

創業当時、Francfrancが想定していた購買層は、「都会で一人暮らしをする25歳の女性」でした。しかし、創業後約20年を経た今、「25歳の女性」の定義は明らかに変わりました。1990年当時、25歳前後の女性は、購買意欲が旺盛で、ファッションやインテリアにも積極的にお金を使いました。 しかし、今は、そういう25歳の女性は少なくなっています。むしろ、もう少し上の年代、40歳代~50歳代の女性の方が、元気で消費意欲も旺盛です。

つまり実年齢でマーケティングを行う時代は、もはや終わっているのです。今は、「マインド」でマーケティングをする時代です。「生活を楽しみたい」、「自分自身を大切にしたい」etc…。今、私たちはそんなマインドを持った方々をお客様として想定しています。それにともなって、現在はFrancfrancのリ・ブランディングを進めています。

まずは出店場所の見直し。これまで若い女性が好む、ファッションビル内に多く出店していましたが、これを見直して、より幅広い年代のお客様が立ち寄りやい、路面店を増やす予定です。また、目の肥えたお客様にご満足いただけるよう、商品の質やデザインのさらなる向上に取り組んでいきます。

絶好調な時こそ、足元を見直す

さきほど「人生には波がある」という話をしましたが、企業経営も同じ。どんな企業にも、いい時期と悪い時期があるものです。ですから、会社の業績が好調の時には、次に来る不調の時期を見越して早めに手を打っておかねばなりません。 Francfrancにも、数年前、絶好調の時期がありました。

売り上げも利益も右肩上がりで、数字上は何の問題もない経営状態だったのですが、次第に私はこの状態に疑問を持つようになりました。実際に売り場に行ってみると、やはり、何とも言えない違和感があるんです。Francfrancというブランドが勝手に膨張しているだけで、質は上がっていないことに気づきました。それですぐに経営方針の切り替えを決意。粗製乱造型の経営を見直し、店舗数をむやみに増やすことも止めました。その後、リーマンショックが起こりましたから、結果として、あの時経営方針を切り替えたことは良い判断だったと言えます。

今後の展望

リーマンショックからは徐々に立ち直りつつあった日本経済ですが、今度は東日本大震災による打撃を受けています。しかし、なんでもかんでも「景気が悪い」で片づけないことが大切です。景気が悪くても好調な企業は必ず存在しますし、逆に、好景気の時に倒産する企業だってあるものです。

先程お話したとおり、人間万事塞翁が馬。考え方次第でこの難局をチャンスととらえることもできるのです。企業が頑張って売り上げを伸ばせば、雇用が生まれ、経済が勢いを取り戻すのですから。もちろん、バルスでも今、いろいろと新しいことを始めようとしています。そのいくつかをご紹介しましょう。

今後の展望

キオスク型の店舗を作る

近々、Francfrancのエッセンスをぎゅっと詰め込んだ、小規模店舗を新たに出店したいと思っています。キオスクくらいの規模で、通勤や通学の途中に気軽に立ち寄れるお店です。駅構内など、目につきやすい場所に出店することで、これまでFrancfrancをご利用になったことがない方々へのアピールにもなりますし、Francfrancの存在をより身近に感じていただけるのではないかと考えています。

雑誌の発行

2012年のFrancfranc創業20周年を記念して、インテリア雑誌を創刊する予定です。 商品を単体で見せるカタログタイプのものではなく、実際にその商品を使ってコーディネートした「シーン」を読者の皆様に見ていただくことが目的の雑誌です。

「こんな部屋に住みたい!」という気持ちを引き出し、インテリアの需要を喚起することが狙いです。価格は300円~500円程度を予定していますが、同額程度のクーポンをつけて、購入時に使っていただけば、実質0円で雑誌をお楽しみいただけるような構想でいます。発行部数は、国内のインテリア雑誌としては最大の15万部を予定。一般の書店や、バルスの既存店、先に述べたキオスク型ショップでも販売する予定です。

海外展開

2003年に海外初店舗を香港に出して以来、現在、アジア各国(中国、香港、韓国、台湾)に計16店舗を展開しています。海外でもFrancfrancの商品はご好評をいただいていて、業績も良好です。また、私自身、アジアの状況を肌で感じるために2010年から香港に住み始め、海外展開の重要性を再認識しているところです。

ただし、海外進出=中国進出とは考えていません。大都市で富裕層が多い上海や北京は別として、地方都市ではまだまだマーケットとして成立しないと踏んでいます。むしろ、これからは北米やヨーロッパを視野に入れてマーケティングをやってみたいと思います。最終的にはFrancfrancをグローバルに通用するブランドに育て、「Francfranc=インテリアのスタンダード」として認めていただけるようにしたいですね。

会社は私の「作品」

以上のように経営者として取り組みたいことはまだたくさんありますが、今、私が経営者として願っているのは、決して「売り上げを伸ばしたい」とか「企業規模を拡大したい」とかいうことではありません。バルスと言う会社は、いわば、私の「作品」。お客様をはじめ、世間の皆様からいろいろなものをいただいて、それを材料に私が作る作品です。いろいろな方々に助けられ、育てられてきたバルスを、もっと良い作品に仕上げ、10年後ぐらいには次世代にバトンタッチすることが、私の使命だと思っています。

最後に、もう一度言います。冒頭にお話ししたとおり、若い皆さんには、存分に遊び、人生を楽しんでいただきたい。人生の楽しさを知らない人に、他人を楽しませることなんてできないいのですから。そして、遊びながらも、がむしゃらに働いていただきたい。遊びから学んだことを生かせば、きっといい仕事ができるはずです。

PROFILE

髙島 郁夫

髙島 郁夫1956年、福井県生まれ。
株式会社バルス 代表取締役社長

VALUE by DESIGN(デザインによって新たな付加価値を創出する)という企業理念に基づき、「感性豊かなライフスタイル」を提案する株式会社バルスのトップ。 1978年関西大学経済学部卒業後、マルイチセーリング株式会社へ入社。1990年に株式会社バルスを設立後、96年にMBOし独立。 同社は2005年東証二部へ株式上場し、2006年には東証一部への株式指定替えを果たす。 国内外で体得した感性と独自の視点により、2012年に20周年を迎えるFrancfrancを中心にBALS TOKYO,J-PERIOD,About a gir、WTWlなどを展開。大型路面店展開や海外展開の拡大などグローバルブランド化を推進中。ファッショントレンドや感性からマーケティングを実施した事業を展開。趣味はトライアスロンとサーフィン。
http://www.bals.co.jp/


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