青山学院大学 寄付講座

2011年6月22日

慶応義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛 氏


第9回目は、元NTTドコモ執行役員・マルチメディアサービス部長として『iモード』の立ち上げに携わった夏野剛氏が登壇。


日本人のライフスタイルを大きく変えた『iモード』の生みの親として知られる夏野氏は、現在、慶応義塾大学教授として、またドワンゴ取締役として活躍する傍ら、テレビへの出演など多忙を極めている。

今回の寄付講座では、『IT革命がもたらした変化』をテーマに、未来を担う学生たちにインターネットビジネスの可能性を語った。
本当の意味での『IT革命』の恩恵、そして今後ビジネスチャンスとなり得る業界やサービスの解説など、90分にわたる熱い講義。

『IT革命』について

重要なのは、技術そのものではなく、
『社会』を大きく変化させる技術であったかどうか

慶応義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛 氏

みなさん、こんにちは。今日は、僕にとっては非常に馴染みがある青山学院大学で講義をやらせていただけるということで、大変楽しみにしてきました。この機会をお借りして、みなさんと一緒に『IT革命』について考えていきたいと思います。

みなさんは1990年、もしくは1991年生まれですね。そうすると、この10年間でどれだけ社会が変わったのかをあまり意識することなく、メールやインターネットの存在を当然のものとして受け入れてきた世代でしょう。なので、最初に『IT革命』の歴史からお話していこうと思います。

みなさん、『IT革命』とは何だか分かりますか? 『IT革命』を語る時、最も重要なのはこの『革命』という言葉です。歴史上の『革命』と名がつくもので記憶に新しいのは『産業革命』ですね。それまで地道に手作業で生産していた衣類や生活用品が、工場で機械によって大量生産されるようになり、人々のライフスタイルが180度ガラっと変わったあの時代です。

例えば、王様しか着ることができなかったマント(高級衣類)を、誰でも気軽に着られるようになったり、モノの値段が安くなることで、人々の生活やビジネスに対する考え方が大きく変化するということ。ここで最も重要なのは、技術的に何かが変わったということではなくて、それによって社会が大きく変わったということなのです。

『IT革命』も同様、コンピューター技術や情報通信技術が発展したことにより、社会、経済、ビジネス、生活などあらゆることに影響が及ぼされ、人間のライフスタイルや行動パターンが劇的に変化したという事実が素晴らしく、重要なのです。

一昔前までは、社会人1年目からパソコンを貸与されるなんてことはなかったですし、男女のコミュニケーションにメールが使われることもなかったわけですから、IT革命によって、仕事や恋愛の仕方まで大きく変化したと言ってよいでしょう。

『IT革命』がもたらした変化

(1)技術のコモディティ化

慶応義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛 氏

この15年間で人々の生活は大きく変化しました。15年前はWebサイトにアクセスするという考え方すらなかったわけですから、何か分からないことがあれば図書館に行って調べるとか、せいぜい周りの人に聞いてまわるぐらいしかできませんでした。それが今では、Googleを利用して簡単に調べることができますし、インターネットでその道に詳しい学者さんの見解を聞くことも可能です。

こうした一つ一つの変化はもちろんのこと、IT革命によって、技術そのものの価値も変化しました。これまで日本の社会において技術は大変重要なもの、企業にとっては宝だったわけですが、今では技術をわざわざ自分たちで生み出す必要はありません。

インターネットを利用すれば誰でも簡単に欲しい技術の在り処を知ることができ、その技術を借りてくる、あるいは購入することができるのです。これこそが、IT革命がもたらした最大の変化=『技術のコモディティ化』です。

技術はマーケットですべて入手可能であり、自分たちで開発する必要がなくなったわけですから、これまで企業が技術の研究開発(R&D)に費やしてきた莫大な費用や労力は、ほとんど必要なくなってしまいます。

これによりビジネスに対する考え方は大きく変わり、M&Aによって飛躍的に成長を遂げる企業がたくさん出てきました。技術だけでなく、スキル、知識にも同じことが言えます。知りたいことがあればGoogleなどの検索エンジンで何でも調べられる時代ですから、誰もが何かの『にわか専門家』になることができます。

例えば、今年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災。この震災によって、原発に関する情報に人々の興味関心が集まると、ついには『にわか原子力博士』と呼ばれる人たちがたくさん現れました。検索エンジンを使いこなすことで、誰もがスペシャリストになれる時代なのです。自分の好きなものを追求し、何か一つに特化する、専門家になることが成功を掴むきっかけになるということを、みなさんも覚えておいてください。

補足ですが、検索エンジンを使う時は『英語』や『中国語』などの使用人口が多い言語で調べることをお勧めします。英語で検索することによって情報量は一気に増えますし、そもそも日本語でしかコミュニケーションが取れないことは、この先のグローバル化には命取りになります。語学力は重要です! 語学力とインターネット知識は身につけておいて損はありませんよ。

さて、本題に戻ります。技術や知識、スキル、人材でさえ簡単にマーケットで入手可能となってしまった為、企業にとって新たなビジネスモデルを創る能力はさほど重要ではなくなってしまいました。それよりも、どうやって既存ビジネスに付加価値をつけるかが重要となり、企業の経営戦略は大きく変化していったのです。そのことに気がつかない企業は、これからの時代を勝ち抜いていくのは非常に難しくなってくるでしょう。

(2)情報伝達スピードの高速化

『IT革命』によって情報の伝達スピードが超高速化したことも大きな影響を及ぼしました。昔は人から人へ噂話が伝えられていましたが、今はツイッターなどを利用して世界中に秒速で噂(情報)が広がっていきます。この前提に立たなければ、企業の広報戦略やPR戦略は成り立たない時代になっているのです。

また、問題が発生した時の対応スピードが明暗を分ける時代とも言えるでしょう。トヨタ社のプリウス問題がまさしくこの典型的な例でしたね。最終的に、トヨタ社には責任がないことが分かったものの、原因の追及と調査に時間を費やしている間に情報が一気に拡散し、世論がヒートアップしてしまいました。情報の伝達スピードが超高速化したことによって、クレーム対応や新規ビジネス立ち上げにさらなるスピード感が求められるようになってきたことを、企業のトップは認識しなければならないでしょう。

(3)すべての情報が「流通」する時代へ

技術や知識だけでなく、人材までもが簡単にマーケットで入手可能になったことは前述のとおりです。インターネット上には様々な情報が流通し、その情報量は刻一刻と増幅しています。人材に関して言うならば、近年、米国の企業においてツイッターやブログを利用して優秀な人材を確保する動きが出始めています。個人が情報を公開できるようになったことで、これまでの就職活動では発掘できなかった人材や、社員の才能が見出され、社会に影響を及ぼせる時代になったのです。

この先の日本社会にどのような変化が起き得るのか

『IT革命』はまだ道半ば 変化に柔軟に対応し、より革新的な未来を創造しよう

慶応義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛 氏

1、情報の『非対称性』を前提とした仕組みが必要なくなる
(ex:記者クラブ、政府の研究機関や諮問委員会、多段階役職)
情報の『非対称性』とは、複数の当事者間で保有する情報量に格差がある状態のことを指し、これを前提として組織された記者クラブや政府の諮問委員会、多段階役職(社長、副社長、専務、常務、取締役、執行役員、部長、担当部長、課長、係長、一般社員)とくに、上司と部下の間で情報をとりまとめていた中間管理職などは必要なくなってくると考えられます。


2、ユーザーのオペレーター化が促進される
(ex:旅行代理店、証券会社の窓口、デパートの地域物産展、図書館)
これまでユーザーの代わりに手配や購入、発注などを行っていた、いわゆる『中間』に存在するもの(立場)は必要なくなると考えられます。しかし、それ自身で価値が生み出せるのであれば、引き続き存在価値があると言えるでしょう。


3、経営者の役割が変化する
これまでの経営者の重要な任務は、多段階役職を前提とした組織において、『管理・監督』することでしたが、情報が役職に関係なく簡単かつ瞬時に把握可能になったことにより、その役割自体が変化していくことが考えられます。具体的には、自らが率先して組織をリードし、会社の方向性を示す、または意思決定をするという強いリーダーシップが求められるようになるでしょう。


『IT革命』が叫ばれるようになって久しく、みなさんのなかには既に『IT革命』が終わったと感じている人もいるかもしれません。しかし、新しいものが生まれ、それによって社会が大きく変化したのちにこそ、本当の意味での『IT革命』の恩恵がやってくるのです。

つまり、『IT革命』はまだ道半ば。Eコマースやネット広告業界はむしろここからが本番と言えるでしょう。インターネットの恩恵を受けて育ってきたみなさんの世代だからこそ気がつけるビジネスチャンスがまだまだあるはずです。

これから変化しそうな業界、モノ、サービス、組織、制度は何なのか、みなさん自身で考え、自らの斬新なアイデアを形にしていってください!

ご清聴ありがとうございました。

PROFILE

夏野 剛

夏野 剛1965年、神奈川県生まれ。
慶応義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授

1988年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガスへ入社。
95年ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒業。96年ハイバーネット取締役副社長。
97年NTTドコモ。榎啓一氏、松永真理氏らと「iモード」を立ち上げた。
2005年NTTドコモ執行役員マルチメディアサービス部長に就任。2008年NTTドコモを退社。
現在は、慶応義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授のほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングス、SBIホールディングス、ぴあ、トランスコスモス、GREEの取締役を兼任。World Economic Forum “Global Agenda Consortium(略称:W3C)” Advisory Boardメンバー。
特別招聘教授を務める慶応義塾大学大学院 政策メディア研究科では「ネットワーク産業論」をテーマに講義する。
2001年ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選ばれる。
著書に「ケータイの未来」「iモードストラテジー」「1兆円を稼いだ男の仕事術」
「グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業」「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」
「人生の大義−社会と会社の両方で成功する生き方」など。


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